#006

メルズーガ

2016.02.12

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フェスから砂漠の街メルズーガへ向けて出発。
朝、運転手さんとのおきまりの短い会話。

「サバハラヘル」=おはようございます
握手をして車へ乗り込む。

運転手のおじさんは、短気だけどとってもいい人。
すれ違う車に何か怒ってると思いきや、次には笑っていたり、気を遣ってくれたり。とてもいいキャラクター。
私たちは「おとうさん」と呼び始めた。

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さて、今日はとても長い長い移動日。
約500km弱、約8時間の距離を移動。

アトラス山脈を越えていく。天気がいい。
モロッコはもう春。知らないけれど、間違いない。

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山、山、広い大地、山、崖、山、大地、大地、石、山、岩、山。
時折、人と建物、そして、動物。

この風景を字で表すなら、
「遠〜〜くまでひろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」
「遠〜〜くまでみえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜る」

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大地の「薄茶ピンク色」と、石の「薄緑灰色」と、空の「薄水色」と、夕方空を染める「オレンジから紺色のグラデーション」と、国旗の「赤と緑」、建物のパステルカラーはモロッコの定番カラーに見える。
ここから夏にかけて、花も咲いて大地の緑が強みを帯びてくると聞いた。
季節ごとに訪れるとまた印象が違うのかもしれない。

今は、全体的に薄い色が風景を作っている。

モロッコの大地を通り抜けていてとても面白いのは、
「あー、綺麗な景色だなー」と思って眺めていると、突然その大パノラマに人がぽつんといたりする。どこからどうやってきたんだろうか。そして、何をしているんだろうか。

この大パノラマは、

山、大地、山、大地、大地〜〜〜〜〜〜

山、大地、山、大地、大地〜〜〜〜〜〜

山、大地、山、大地、大地〜〜〜〜〜

山、大地、大地〜〜〜〜〜

山、大地、山、大地、大地〜〜〜〜〜。

というように、わーっと自然の風景があって、ちょっと街があって、またわーっと自然が広がって、突然人がぽつんっといたりする。

もうどうやってもこの面白さは伝わらない。
これが限界。

さてさて、私たちは単に移動をしているわけではないのです。
モロッコを感じる、ということをわざわざしている。
感じようと思って感じている。
感じるぞ!と意気込んで、何もなくとも感じている。
感じていない、ということも感じているし、無理矢理でも感じている、ということを目指したいと思っている。不自然なのかもしれないけれど、それが大事だと思う。

4月にお披露目となる、GOSHIMA絨毯のセカンドクオリティ「GOSHIMA Traditional Collection」では、モロッコの色や伝統紋様を取り入れたデザインに、わたしたちの思いや意思を込めることが大きなテーマとなっている。そして、このトラディショナルコレクションには3つのラインがあって、そのうちのひとつのカテゴリ「マグリブ アート」では、モロッコの風景を表現している。

これは、そこにあった風景を、ただ、織り込むのではない。

星、海、山、樹、大地、昼と夜。
この自然の風景から、私たちは何を学び、何を伝えるか。
もう一歩先をいった絨毯づくりのためのデザインである。
GOSHIMA絨毯のセカンドクオリティ「GOSHIMA Traditional Collection」の思いと3つのカテゴリのコンセプトを、三方舎さんと打ち合わせを重ね、このようにつくった。

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数年、イランという国で作られているギャッベという絨毯と共に歩んできました。その感性豊かな絨毯から、私たちは多くのことを学び、教えられ、育まれ、そしてそれを伝える方法を試行錯誤してきました。その後巡ってきたモロッコという国との出会いは、私たちの世界観をより大きく広げてくれるきっかけとなりました。自然の恵み豊かな「モロッコ」という大地を媒体に、私たち自身が学ぶこと、またその学びから得たたくさんの伝えたいことがあります。
—ものを通して学びを得る、ものを買うのではなく経験を買うーギャッベが教えてくれたその体験を、今度はモロッコの人々と大地とともに、一からわたしたちの言葉と表現で紡ぎだそうとしています。気品溢れる「Royal Collection」。そのセカンドラインとして続く、「GOSHIMA Traditional Collection」。
「GOSHIMA Traditional Collection」では、今日の私たちの基礎を育んでくれたすべてのものに尊敬の念を込めて、ここからまた新たな伝統をつくり続けていきます。

【traditional art ー伝統紋様の継承ー/トラディショナル アート】
すでにあるものに目を向け、使い続けていくこと/古き佳きものからメッセージを受け取る絨毯

モロッコで作られた絨毯やキリムには、その風土で育まれ使われてきた伝統的な紋様が数多くあります。そして、それらはとても美しく興味深いデザインも数多く見られます。使い続けなければ忘れ去られていく紋様を、再度、現代に生きる人間の感性を融合させ、かたちを変えながらもこれからの世代に受け継いでいくこと。それは、今を生きるわたしたちにとってひとつの責任であり、過去の素晴らしいデザインに目を向け続けることで、自然とともによりよく生活することへのヒントや感謝の気持ちを受け取ることができると考えます。また、伝統紋様をひとつひとつ浮かび上がらせ大事に使用していくことが、ものを大切にする心や感覚を育んでくれることにも繋がっていきます。

【maghrib art ーモロッコの情景ー/マグリブ アート】
作るひとたちの手跡の集合体と使うひとたちの記憶の集合体となる絨毯

モロッコという国は度々色で表現されます。絨毯に表現されたモロッコの色とともに育つ日々は、遠い国や民族と心や肌でつながることであり、やがてモロッコの風景の色は日本の生活の記憶となります。
同じ星に広がる、まだ見ぬ景色は、ひとつの情景「色の世界=目で見て心に記憶する風景」となって刻まれていきます。モロッコで暮らす織り子さんの仕事の形跡は、海を越えてやってきて、そこから私たちの生活の形跡と融合し、ひとの暮らしと歴史が、色と風景とともに発展していくのだと思います。

【amazigh art ー先住民の芸術的感性ー/アマジィーグ アート】
自由=自ら獲得していくちから=生き方/考えるきっかけをもたらす絨毯

モロッコの先住民族であるベルベル人を象徴する「アマジーグ」=「自由」という意味をもつマークをデザインの基調とし、その歴史や意味から今を生きる人々が多くのことを学び取ることができます。
自由とは、自ら獲得するものであり、与えらえるものではない。
そして、獲得したものは、使いこなし、自分のものにしていくための時間とともにある。
amazigh(アマジーグ)と呼ばれるマークが、画面の中で重なり合い、新たな表情を見せています。
はっきりとは見えない「自由の象徴」は、方向をかえると、また、見ようとすると見えてくる。

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もう、まじめもマジメ。大まじめである。
この真面目さをさらに深めるべくモロッコに来たわけです。
これらの思いやコンセプトはまだまだかたちにはなっていない。
リアルタイムで過ぎて行くモロッコの風景の中の、移動の車のなかで、今もなお、考えを深める作業は進められている。

出来上がったものをどうするか、という順番があるものではなく、織り子さんが作っている時間と、どう伝えるかを考える時間が同時で進行していく。そして、それはモロッコに来て、より具体的になって進んで行く。

というような話をしている間に、砂漠の街の手前で日没となりかけたので、降り立って撮影。
こんな広大な大地で沈んで行く太陽をみるのは初めてだった。
上下左右で地球の丸さを感じ、陽が沈めば沈む程世界が広く深くなっていく。
暗くなって見え始める景色があった。

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たっぷり全力で撮影したのち砂漠一歩手前の街エルフードに着いた。
ここから四駆に乗りかえてメルズーガに向かう。
運転手さんも交代。お父さん、また明日。

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ホテルに着く前にひとつアトラクションが待っていた。
真っ暗な夜の砂漠を、ぼっこぼこの道を、砂埃をあげて滑走してくれる。
わーわー言ってるうちに宿に着いた。
楽しい演出ありがとう、運転手さん。

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月と星がきれいだった。

イメージしていた砂漠=砂丘はほんの一部だ、ということに、夜が明けて景色の全容が見えて初めてわかった。明るくなってわかること、暗くなって気づくこと、モロッコの景色のなかで、感覚が広がっていく。

そして、私たちがわーわー言って走ってきた砂漠の横に、ちゃんと舗装された道がある、ということも、夜が明けて、太陽の光のもとで知った。

早朝、ラクダに乗り砂漠の砂丘で朝日を見た。
朝方の砂漠の砂はとっても冷たい。

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「GOSHIMA Traditional Collection」のマグリブアートのひとつ、砂漠の風景をデザインしたものにはこのようなイメージをつけた。

長い長い距離を
自分の足で歩いて
旅をした
足の裏の皮膚と 心は
その長い長い旅を忘れない
次の一歩は
どっちの方角か

人生の節目と砂漠を踏んだときの感触は似ているような気がしていたけれど、実際に砂漠に来てみて、そのイメージはそう遠くはなかったような気がする。

砂漠の街を後にして、次の街ワルザザードへ向かう。
途中、アーモンドの花が満開で、立ち止まって撮影。
以前、桜の咲く頃、木の下でお花見をするのは日本独特なことだ、と聞いたことがある。
たしかに、アーモンドの木の下でお花見をしているモロッコ人は見かけなかった。
とっても綺麗だったので花びらを集めた。

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車に戻って、地球の歩きかたに挟める。
きっと色はかわってしまうだろうけど、この花びらを見るたびに、あの時間の光と風の温度と、いちいち降りて撮影をする世話のやける私たちを、じっとまっている運転手のおじさんの顔を思い出すのかもしれない。

アーモンドの柄の絨毯の制作が進み始めたという連絡。
移動中の車のなかで、工房から送られてくる画像を確認。

全てがリアルタイムで同時進行。
全員が全力で同時進行。

 

 

 

photo:Tooru Takahashi
text:Akane Kobayashi