#008

アイトベンハッドゥ

2016.02.14

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日が暮れて、イマシン村からワルザザードに戻り、ホテルで夕食。やっぱり、スープ+前菜+タジン+パン には飽きたから、今日はカップラーメンを食べよう。食堂に行って、今井さんが「ホットウォーター!」といってカップ麺用のお湯をもらおうとしたが、ふと隣のテーブルのひとが食べているもの見ると、なんと、パスタだった。今井さん、急いで「ノットウォーター!」と伝える。ひとまずカップ麺は繰り越した。

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そして、鍵が壊れたり、水が漏れた部屋は変えてもらい、昨日とはうってかわって平穏な朝が来た。ほうじ茶に梅干しを入れて再び日本に思いを馳せる。と同時に、ものすごくモロッコ時間に慣れてきた気がする。

今日は、世界遺産であるアイトベンハッドゥへ。
取材2件。

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まずひとつ目は、女性の協同組合へ。

協同組合とは、そこの村に住む女性達が集まりクッキーを作ったり、手芸をしたり、絨毯を織ったりして、それを販売することで得た収益はみんなに分配されるという。世界遺産の中にあって観光客が多く訪れるが、だからといって多くの利益を得られるわけではない、と教えてもらった。

それは、売るものがないのか、いいものがないのか、お客さんが欲しいと思うものがないのか、それはまだよくわからなかったけど、なにかしたほうがいい、ということはわかった。

「よくしよう」
その気持ちがここにもあった。

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建物に入った瞬間に、これまでの雰囲気と違うものを感じた。
綺麗に整えられている。
お香なんかも焚かれていて清潔感があって、なんかかわいい。
笑顔の素敵な女性達が数人いて、笑顔で挨拶をかわす。
世界共通、笑顔が素敵なひとはかわいい。

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ヒシャムさんと今井さんは、この女性達のためになるような、この女性達が喜ぶような仕事の在り方と、質のよい商品を作りたい、と言った。

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サンプルで織られた小さな絨毯を2枚見せてもらった。

それは、きっちりとした精度の高いものではなく、ちょっとゆがみがあったりしていたけれど、柔らかくてあたたかくて、ひとことで言うと、かわいい。

ひとの手跡を感じる、温度のある小さな絨毯だった。

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続けて、ヒシャムさんと今井さんは、利益とともに誇りや生き甲斐につながるような、そんな商品を作って日本で販売したいと言った。

どういうデザインがいいかな、考えてみて、と私たちへ投げかける。

とてもいいことだと思う。
いくらでもアイディアはあるだろうし、なんだってできなくないと思った。

でも、まだ、よく見えないことがある。
すっきりしないこともある。

女性達に聞いてみた。
「ここできちんと売れるもの・方法が必要なのか。それとも、日本や外国へ輸出されて売れるもの・方法がいいのか。」

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その問いに対して、ひとりの女性がこう答えた。
「外国へ作ったものがでていく、そうして、ここ(アイドベンハッドゥ)が有名になって、多くの人が訪れてくれるようになったらいいと思う。」

村に住む女性達の主な仕事は、畑仕事や家畜の世話、家事やこどもたちの世話。
その合間に集まって、絨毯を織ったりクッキーを作ったりしてほんの少しの副収入を得ている。「働いてお金を稼ぎたい」という思いがあるという。だけど、仕事がない。

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では、働いて得たお金は何に使いたいのか。
それは、家族のため。

ここまで来ると、普通、
「そうだね、そうだね。じゃあ何か仕事をだすよ。いいもの作って。こちらで売るから。ちゃんと売れるものをつくってね。どんなものがいいか、どんなものが売れるか、私たちと一緒に相談して作りましょう。」
となる。

それでいいし、それもいい。そこから始まることもたくさんあるし、そういう一歩を踏み出せる資本を持っているひとの存在は大きいということも知っている。
だけど、だけどなにか、こころに引っかかるものがある。

もっと他のアプローチがあるのではないか。
と思ってしまうのは、うがった見方なのかもしれない。

けれど、すっといかないのは、何故だろうか。
もやもやした気持ちは晴れない。

ここで、おさえておきたいのが、デザインしてもらう、やってもらう、作ってもらう、買ってもらう、売ってもらう。この「もらう」が双方に存在する関係では、絶対に長くは続かない、と思っている。

私たちと彼女達は、対等に、自分たちの生活や将来について真剣に考え、いいものをつくるためにはどうしたらいいのかアイディアをだし、また、次の世代に繋がって行くことがなんなのかを見ようとしないといけない。国と国がつながること、人と人がつながること、思いと思いがつながること、その本質はどこにあるのか、ちゃんと考えなければならないし、ものを作って売る本当の喜びはどこにあるのか、きちんと見据えなければいけない。

家族のためにお金を稼ぎたいから仕事をしたい。
それはもう大前提。

でも、でも、お金を稼いだ先に、それぞれの仕事をする動機に「自分のため」があってもいいんじゃないか。そんな風に考えたっていいんじゃないか。こんな考えは、日本でのんきに暮らしているからこそかもしれないけれど。

家族を支えるために精一杯。
それでも、その先に叶わなくとも「自分のため」があってもいいんじゃないか。
なんだって一人の人としてこの世界に存在しているんだということから物事が始まる。

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なにより一番大事にしたい考えがある。

まず、自分たちで変わる、変わろうとするちからを、その価値観を身につけることが大事だと思っている。誰かが与えてくれるきっかけを待ったりしない。どう変わりたいのか、どんな世界にいたいのか、まずは自分たちで思い描くちからを持てるような、その方法を取得するようなものづくりでありたいと思う。

もちろん、同じく私たちも、その方法を取得できるようなものづくりでなければいけない。
お互いがお互いの力を借り合って自立した生活を送れるような、そんな関係性でありたい。

私たちの仕事には、「デザイン」と「企画」という二つの柱があって、それは、これまでそこにあったものをブラッシュアップする仕事ではない。そこにあった現実を新しい価値観や見方によってレベルを上げて、そのちからをもってそこでしかないアイディアを「生み出す」こと。そしてそれがその地の特有の誇りとして活用、発展されていくこと。

だから、彼女達とは、新しくてそこにしかなくて彼女達と私たちだからこそ出来た、というものづくりであったらいい。そして、どうせやるなら規模は小さくとも、身の丈にあったやり方で、密度の濃い世界一のものを具体化できたらいい思う。

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1時間弱の滞在。
もっと時間をかけて話したいこと、聞きたいことがあったけれど、タイムアップ。
どうしたらいいか、考えてみる。日本へ持ち帰る宿題。

 

次の取材へ。
同じくアイトベンハッドゥの地域にある、染色の工房へ。
同じく赤茶けた、薄茶色ピンクに染まる大地の大パノラマの中にある。

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3ヶ月前までは牛小屋だった、という。
そこを改装してGOSHIMA専用の染色工房となっていた。
工房の名前はSPS tinctoria。SanPouSha Mroocco独自の染色工房となる。

工房で糸を染めるのはホサインさん。
モロッコの大地で採取された植物を原料に糸を染めている。

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ここでも「色」についての話。
先日のイマシン村に続き、この工房で染め上がった色に囲まれてうっすら気がつく。

 

もしかして、もしかして、モロッコでは中間色という概念がないんじゃないか・・・

 

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原色に近い色とりどりの糸。日本にある、例えば、うす紫 や うぐいす色 や あさぎ色 なんかの曖昧な色だけど名前がつけられていて存在感があるような、かつ、ひとつの色にいくつもの段階の濃淡を表現していく、そういう風にそれぞれの色に幅をもたせる感覚は、今、ここにないのかもしれない。それは、国の文化やその地にある自然の色だったり、様々な要素があるのだろうけど、わたしたちの感性と融合することで、きっとまだまだモロッコでの色の幅は広がっていけるような気がした。

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逆に、私たちは、モロッコの大地の色を「茶色」「うすピンク」に感じているけれど、モロッコの人たちは私たちが思うその色とは違う感覚にいるのかもしれない。

レセダで黄色の糸を染めていたので、その場で、2段階の淡い黄色をだしてみる。
とてもいい感じ。この幅が広がれば、今まで「ちょっと難しい・・」と時間がかかっていたグラデーションが綺麗な絨毯が作れる。

確かに、イランやトルコの絨毯のクオリティとは違うのかもしれない。
でも、この国にはこの国の良さがあり、そのアイデンティティを作ってきた生活や歴史についてもっと知る必要があるのかもしれないと思った。

逆に、私たちが日本人として持ち合わせているアイデンティティについて自覚することも必要だと感じたし、その感覚を融合していく方法をオリジナルでつくりだすこともまた必要なこと。冷静に、現実を知って、次の一歩をどう踏み出すか、そのセンスが問われているような気がした。
旅が進むにつれ「風の壷と羅針盤」のやるべき仕事が見えてくる。
GOSHIMAに関して言えば、もしくは他の仕事すべてにいえるのかもしれないけれど、取り組むべきことは、スペックの管理や品質の向上ではなく、デザイン力や発想力を使って流れやリズムを作ること。モロッコで生まれた単音に、また違う音を重ね、絶妙なバランスを保ってメロディーをつくる。そしてそのメロディーが海を越えて奏でられるように、私たちは、その奏で方をわかりやすく翻訳して伝える役割なんだと思う。

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そろそろ日本へ帰って仕事したい。
お米も食べたい。

 

photo : Tooru Takahashi , Aya Sakurai
text : Akane Kobayashi