#004

4月23日 土曜日ー新潟(4)

2016.04.28

05-07

新潟でのお披露目もあと2日。
気がつけば、あの子もあの子も新たなオーナーの元へ旅立って行った様子。

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真面目に、まっすぐな気持ちで考えて組み立ててきたことが、少しずつだけれど、確かに受け入れられている感がある。

自分で言ってしまった。

「真面目に、まっすぐ。」

でもほんとうにその通り。

今回、売り場のなかで、ひそかな人気と手応えを感じるのが、「traditional art」という種類の絨毯。意外だった。意外にも受け入れられていて、意外だった。
お客様に「すてきですね」と言われるたびに、その絨毯が、輝きと自信を持っているように見えたことも意外だった。

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売り場で、もの言わぬ絨毯と密かな交信をしていた。

もう一度、コンセプトを読み返してみる。

 

traditional art ー伝統紋様の継承ー
トラディショナル アート
すでにあるものに目を向け、使い続けていくこと/古き佳きものからメッセージを受け取る絨毯

モロッコで作られた絨毯やキリムには、その風土で育まれ使われてきた伝統的な紋様が数多くあります。そして、それらはとても美しく興味深いデザインも数多く見られます。使い続けなければ忘れ去られていく紋様を、再度、現代に生きる人間の感性を融合させ、かたちを変えながらもこれからの世代に受け継いでいくこと。それは、今を生きるわたしたちにとってひとつの責任であり、過去の素晴らしいデザインに目を向け続けることで、自然とともによりよく生活することへのヒントや感謝の気持ちを受け取ることができると考えます。また、伝統紋様をひとつひとつ浮かび上がらせ大事に使用していくことが、ものを大切にする心や感覚を育んでくれることにも繋がっていきます。

 

そうだった、そうだった。と自分で復習。

売り場では「この模様はなんですか?」と聞かれるところから、話が始まる。
モロッコの伝統的な紋様のひとつである、ということ。
そこにオリジナルのイメージを加えたということ。
この絨毯はただのインテリアではなくて、人の生活を律する装置であるということ。

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売り場にいて、三方舎さんの接客に聞き耳をたててるだけではなく、時折、自分の思いを「熱く」語ってみる。いろんな角度から「熱く」語ってみる。

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このモロッコの伝統模様は、三方舎の今井さんよりお借りした、モロッコの織物の歴史が書いてある本を参考にしてデザインをした。英語とフランス語で書いてあって、頑張って所々単語を拾ってイメージだけで読んでみたけど、当然、全容は掴めていない。

今回の新作のデザインを始めるにあたり、一番最初にいただいた投げかけが、「伝統紋様をデザインする」ということだった。紋様をデザインするといっても新たに考えるということではなく、これまでの歴史のなかで使われてきた紋様を再び使う、ということだった。

だから、資料から紋様を拾いそれを発注できるデータにして欲しい。
そういう投げかけだった。

今井さんから投げかけられたそのことに関して、少し抵抗があった。
「いいですね!やりましょう!」という勢いに乗れなかったのは。そこに何の意味があるのか、その昔、名も無き誰かが創ったものをそのまま使うこと、一般化されたデザインを再度自分たちのオリジナルとして世にでていくこと、それは、誰の何のためなのか。できることならば、新しく一から創りたい。

そして、「データ化するだけならば私がやらなくてもいい」という生意気な口を叩いたことはうっすら覚えている。

腹に落ちない部分をもう一度聞いた。しつこく聞いた。
今井さんから返ってきたのはこんなことだった。

「古いものの中には美しいものがたくさんあって、その美しいものを生み出した祖先をもつ、今の若いモロッコの人でさえ、そんな紋様があったことさえわからない。だからといって、その若い人達に伝えるために古い紋様のデザインを作るんじゃない。今の日本の人へ向けて、絨毯にメッセージを託したい。美しいものを大事に使い続けていくこと、絨毯から何か学べる人生を提案したい。ただ絨毯というものを売るだけではないし、伝統を守っていくことだけでもなくて、ただ、この世界に存在した美しいものを伝える。そこから語れることがたくさんある。そんな絨毯を作りたい。」

「美しい」という表現に、妙に納得した。
「美しい」イメージを作ろうと思えた。

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伝統紋様を、木と星と太陽に見立て架空のイマジネーションの中だけの風景を作った。

先の記事で、「スターダスト」という柄の絨毯についても同じことを書いたが、幼い頃、夜の空に浮かぶ雲を見つけた瞬間、衝撃が走った。雲は昼の空にだけみえるものだと思っていたから、びっくりした。
雲は昼にしかない、なんて、誰かに教えられたわけではないのに、そう勝手に自分で思い込んでいた。だから、勝手な思い込みは、世界を狭める。

見えないと決めつけず、見ようとすること。
夜空に浮かぶ雲からそう教えてもらった。

そんな体験と、「伝統紋様」について、イメージと思いを重ねていった。

イメージやデザインは、ミルフィーユのような層であり、ドレッシングのような配合バランスだと思っている。ひとつひとつの素材から発せられるイメージと情報はどれもこれも美味しく興味深い。それらの精一杯の融合が「絨毯」としてこの世に現れた。

美しいものを愛でるだけではなく、生活のなかで敬意をもって使っていく。
美しいものはある種の道具である、ということ。
そして、私たちをよりよく生かせてくれる装置であること。

この「traditional art」という種類の絨毯のなかに、「Day & Night」というタイトルをつけたデザインがある。昼と夜とを混在させたひとつの絵。

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朝が来て、働いて、家に帰り、眠りにつく。

そしてまた、朝が来る。

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この繰り返しは、ほんとうは奇跡の連続なのかもしれない。
自分がこうして命を繋いでもらって存在していることも、美味しいものを食べることができることも、美しいものに出会えることも、人を愛したり、笑ったり泣いたりできることも、すべて、先人たちの命のおかげなのかもしれない。

だけど、感謝するってことは、かなりの確率で忘れがち。
というか、すぐ忘れる。

だから、生活のなかで、立ち止まるための「装置」として絨毯がある。
立ち止まって、ひとふみして、腰をおろして、一秒でも感謝する時間を。

「おはよう」と言って1日を始めること。
「行ってきます」と言って出ていけること。
「ただいま」と言って帰れること。
「おやすみ」と言って眠りにつけること。

一日にありがとう。

ふらりと訪れた家族連れのうち、ある一人の男の子が、白地に黒の紋様の「traditional art」の絨毯をみて、「木と太陽だねー」と言った。
あまりにも何気ないひとことだかったから素通りしそうになったけれど、その男の子と家族が帰ったあと、静かに、その絨毯の前に立ってみる。

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絨毯の絵柄のイメージのなかで、風が吹いて木々が揺れ、太陽の光が降り注いでいる絵が見えた。この絨毯に「説明」はいらないのだ。

よい景色、よい作品。よい話。
よいものは「明日もがんばろう」と思わせてくれる。

また、明日もがんばろう。

photo:Tooru Takahashi
Text:Akane Kobayashi

 

<<この展示会は終了いたしました。>>

『GOSHIMA絨毯Collection展』
〜Traditional Collection発表会〜
4月9日〜4月24日
10:00~19:00
会期中無休
会場:インテリアショップボーデコール特設展示場
http://www.sps-i.jp/event/20160409_BD/index.html

 

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