5月3日火曜日ー猪苗代（2）

突然、暑くなった。

モロッコからGOSHIMA絨毯のサードクオリティのものが猪苗代へ入荷してきた。梱包材に書かれた文字や、緑の紐、中の模様がうっすら見える感じはワクワクさせる。

モロッコから猪苗代へ。
長旅ご苦労さまです。
天気もよく、来客ものんびりしていたので、外で開封作業。
その勢いでRootsの森に絨毯を展示。

森のじゅうたん美術館ができた。

売り場は、都度、工夫されて変化していく。

同時に撮影をしながら、２月にモロッコへ行ったときのことを思い返す。

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＜MOROCCO全力取材記 #003ラバトより一部抜粋＞
一番小さなサイズを織っていた織り子さんのチームに挨拶する。

この柄をデザインしたんだと伝えた途端、たぶん、「これをつくったひとか！難しいんだから！」と言われたような気がした。たぶん、そう言われた気がする。デザインペーパーをさしてなにか言っていたから、たぶんそうじゃないかと思う。だから、「え！すみません！楽しみです！」と日本語で返しておいた。

実は、そのたぶん的なやりとりには意味がある。そして、サードクオリティには大きな思いもある。現在最高品質「GOSHIMAロイヤルコレクション」はその技術の高さから、織れる人が限られている。もっと技術があがり織れる人が増えて欲しい。そのため、サードクオリティのデザインは、「GOSHIMAロイヤルコレクション」の要素をもちつつ、簡略化したデザインのもと、技術の向上や、いつかはロイヤルコレクションを織れるようになるように、という願いを込めて制作を依頼している。それでも難しいものは難しいのだ。

だけれど、できないからこれぐらいで、というものの見方ではなく、目的地に辿り着くためには、なにを身につけたらいいのか。と考えて行くと、細かい模様をきっちり織りあげていくには、技術と経験が不可欠となる。まずは、その経験をしていくこと。時間をかけてでも挑戦していくこと。

織り子さんだけではなく、その周りの環境を作っているひと、デザインする人、みんなで上質なものづくりに取り組む。そうやって先をみる仕事の在り方をサードクオリティで体現している。

違う部屋には既にいくつか織りあがり、これから洗ったり、規定の長さにシェービングしたりして整え仕上げる作業の前の段階だった。素朴な雰囲気で印象がよいものができていた。三方舎さんと工房のオーナーのほうで、仕上がりの弾力や、フリンジのデザインの仕様や、シェービングの厚みなどの検討が行われる。そして、私たちが日本へ帰る前に、ここで検討したことをやってくれるということになった。感謝。

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日本へ帰ってきて、サードクオリティの絨毯の名前を考えた。
若い織り子さんが織っていくこと、はじまりのデザインであること、そんなイメージから、「Origin」と名付けた。
「どんな風に出来上がってくるか、楽しみですねぇ」なんて話していたら、思いもよらない展開へ。

発注数の３倍の枚数を織った、という。

１が３である。
１０が３０である。
３０が９０である。

結構な間違いだ。
なんでかな。

衝撃は突然やってくる。
明日という日に何が起きるかなんて誰にもわからない。

大量に完成した絨毯が待っているという。
そうなった理由を辿ってみると、こちら側の発注管理にも考えなおさなければいけない部分もあったけれど、とにかく事実はひとつ。

大量に完成した。ということ。
なんでかな。

それでも、「出来上がったのなら仕方ない。頑張ってより多くの人へ届けようじゃないか！」なんて話していたら、またもや思いがけない展開へ。

全部ダメになった、という。

絨毯は織り上がると、シェービングをし、表面を整えた後に洗って完成させる。通常は、染色をした糸を一度洗って色を落としてから織り始めるという工程だけれど、今回は糸を洗わずにそのまま織った。だから、最後に洗ったら色が落ちて滲んでしまったという。

だから出荷できない。という連絡がきた。
みんなで絶句した。

ほんとうに衝撃は突然やってくる。
そして、いつだって事実はひとつ。

いっぱいつくって、全部ダメになった。ということ。

それでも明日はやってくる。
モロッコでの旅の終わりに書いたことを思いだした。

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＜MOROCCO全力取材記 #011カサブランカより一部抜粋＞

街を歩けばいたるところに星の紋様があしらわれたデザインがあり、イスラム教の国にとっては馴染みのある紋様らしい。イスラム教は偶像崇拝が禁止されているので、動物などのかたちあるもので表現が出来ず、幾何学模様で宗教心を表現した。完璧は神様だけのもの。だから紋様は一部わざと欠けさせることもあるという。それとは関係ないけれど、日本の大工さんも、建物をたてるとき、完璧に作ってしまうのではなくわざと途中で終わらせて仕上げるという話を聞いたことがある。

完璧、完全というのは尊いものなのかもしれない。だから、わたしたちは不完全なまま、修行のように日々を重ねていくのかもしれない。

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完璧は尊い。

あの衝撃の出来事から２ヶ月。改めて織り上がってきたサードクオリティの絨毯。
満を持して売り場に展示。
もう、とにかく、すこぶる愛おしい。

その、いっぱいつくって、全部ダメになった。というその絨毯は、いまだモロッコにあって、この先の方向を考えている。

モロッコで待機しているたくさんの絨毯。
今か、今か、と待っている姿が目に浮かぶ。

デザインやディレクションという仕事をしていると、そう多くはないけれど、それまでの積み重ねがスタート地点に戻る、ということもあったりする。
けれど、本領はそこで発揮される。
マイナスに捉えられがちなことをいかに輝かせて見せれるか、視点を変えてどれほど前向きに力強く物事を進められるか、そんなちからも求められている。

だから、ダメなんてものは、ない。
根拠はないけれど、何事も、ダメなんてものは、ない。

Roots Shop横には小さな森があって、そこを「Rootsの森」と名付けてイベントを開催したり、子どもなんかが遊べる場所となっている。