モロッコから入荷してきた絨毯のなかに、あの子もいた。
あのときの、あの子がいた。
赤い糸が一本入っている、小さな黒いSIPPOU。
「どうもー」「お久しぶりです」と言って、梱包材から姿を現した。
MOROCCO全力取材記#003の記事を読み返してみる。
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GOSHIMA絨毯には様々な柄のデザインがありますが、今回はその中の「SIPPOU」の織り途中を見学・取材・撮影させていただきました。この高橋のデザインによる「SIPPOU」は2015年グッドデザイン賞を受賞しています。
今回は小さなサイズのSIPPOUを織っていただいていました。 この道25年という熟練の技術をもった織り子さんが二人、並んで座って作っていた。 普段は、おしゃべりしながら織っているとのことでしたが、日本から人が来てちょっと緊張していらっしゃったのか、黙々と、それはそれは黙々と、織っていた。 多分、それは普段の姿ではないのかもしれないけれど、逆に、糸を結ぶ音、糸を切る音、たたく音、薄暗い静かな空間に淡々とかすかに響いてくる音が、なんとも心をぎゅんっとさせた。
工房は割と古く、建物の中の薄暗さや、天井のしみ、床のひび、織り機のパイプの塗装が剥げたあと、高い窓からさすかすかな光。そこにあるもの全てに、埃にすら、その工房の歴史が積み重なっているようだった。それは、きっと機械織りの工房でも同じだとは思う。 でもそこに、手仕事の工房との違いがあるとすると、当たり前に「人」なんだと思った。 それは「人が織る」ということ自体をよしとするわけではなく、「シンプルな設備とともに技術ある労働があるということ、そしてその仕事が生活と人生につながっている」ということがいいなと。カサブランカの街から受ける印象も同じく、単純なものの強さがあった。
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降り立ったばかりのモロッコで、まっすぐに感じたあの時の時間と景色を思い出して、もう何年も前のことにも思えるし、今はあのときの経験を土台に、さらに何層かは積み上げれてるんじゃないかと思う。
あのモロッコ渡航前後から、ひとときも休まず走り続けている気もする。
また、こんなことも書いてあった。
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これまで「背景があるモノは素晴らしい」「ストーリーあるものづくり」というフレーズをよく見聞きしてきた。そうだなぁとも思ってきた。そういうものを作ろうとも思ってきた。 でも、二人の織り子さんの手仕事をみて、「背景」ではなく「前景」だと思った。 「背」に対する言葉は「腹」かもしれないから「腹景」というべきだろうか。 とにかく、背後ではない、ということ。
私たちがこれまで「背景」だと思って、「背景」として作ってきたのは、全く持って目の前にあること。ほんとうは見えているもの。確かに当たり前に目の前にあること。 実は、、という種あかしではなく、言い換えでも、説明でもなく、それは単純で純粋な魅力。
それをはっきりと表現する。 堂々と表現する。
工房に立ち、そういう表現するにはどうしたらいいのか、と考えた。 私たちのお客様になってくるひとには、そういう切り口で伝えて見せたいと思った。 そうしたら三方舎の今井さんが、今日この日の取材の記しとして、この現場の事実として、
「横にいれるしめ糸に赤の糸をいれてもらうか?」
と提案してくれた。 そういうアイディアは、スペックの知識と経験があるからこそ生まれるもの。 バランスなんだと思った。
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あのときの赤い糸は、しっかりと織り込まれて日本へ届いた。
GOSHIMA絨毯のロイヤルコレクションには、上座と下座、そして、日本とモロッコの融合を表すフリンジがついている。
のはずだけれど、フリンジはついていなかった。
「フリンジ、ワスレチャッタ」とのこと。
フリンジ、忘れちゃったんだね。
でも、大丈夫。
物事は過去へは戻れない。
前を向いて行くのみです。
フリンジはないけれど赤い糸はばっちり入っている。
たった一枚の小さなサイズのSIPPOU。
後にも先にもこの一枚はこの一枚でしかない。
「私」が「私」でしかないように、「このSIPPOU」も「このSIPPOU」でしかない。
赤い糸については、たいした意味はなかった。
だから、あらためて、赤色について調べてみる。
“赤色は 血・火・太陽 の色であるところから、古来から「命の源・活力・恵み・再生」の象徴として使われてきました。”とあった。
遠い昔からある色。
人や自然に馴染みのある色。
その一本の赤い糸は、ひとつの道のようにみえるし、一筋の光が走っているようにも見える。
絨毯の裏に広がる風景。イマジネーションは発展する。
縁側の風景が浮かぶ。
そこでは、良質で上品な時間と体験。
おとなのためのしつらえ。
今、漠然と見えている世界を虫眼鏡を使うようにクローズアップしてじっくり見ていくと、いろんなことに気づく。
以前、鎚起銅器の職人・大橋氏とこんな話をしたことがある。
「何故GOSHIMA絨毯が良質かというと、厳しい環境下で育った羊の毛を使っているから、ということを聞いてもいまいちピンっとこなかったし、羊の毛には調湿効果があるからって聞いても、これまたピンっとこなかった。だって、羊のからだから離れたのに、なんでその効果があるのだろうか。そんなことを考えていたら、こうじゃないか?という答えに辿り着いた。自然のものには細胞があって、その細胞はすべてその体験を記憶しているんじゃないか。だから、その効果みたいなものが続くんじゃないか。」
そんな私の妄想のような話に、大橋氏は、
「鎚起銅器でも同じことがあるような気がする。銅板にも細胞を感じることがある。」
と返してくれた。
実際、鎚起銅器の体験をしてみるとわかる事があった。ずっと固い銅板を鎚いていくと、たまに、柔らかさを感じる部分がある。それはうまく当たっている、ということらしいけれど、きっとそれが細胞を感じたということなんじゃないか、と思った。生き物のように、伸びたり縮んだり固まったりしてかたちができていく。
そんな風に考えると、手づくりであろうと、機械生産であろうと、生きているものには動く細胞を感じるし、生命が宿っていないものには、その細胞が見えて来ないということもあるかもしれない。
なるべくなら、生命力あるものに側にいてほしい。
これは、ちょっとした、細胞と記憶の話。
25年のモロッコの織り子さんの経験と技術。
日本で続く伝統工芸。
自然物に宿る記憶と、それが生き続けるための細胞。
時には、座面の絨毯の心地よさと弾力を肌で感じ、植物の豊かな恵みを舌で味わい、細胞を喜ばせてあげる。そんな重みある喜びを感じる、鎚起銅器とSIPPOUのある時間が、丸ごと商品になりました。
「私」も、「絨毯」も、「器」も、全部「細胞」で出来ている。
その細胞に、どんな記憶を残してあげれるか。
すべては、個々の「生活」というものに対する眼差しの結果なんだと思う。
Photo:Tooru Takahashi
Text: Akane Kobayashi
「Roots Shop」 / Roots猪苗代 info.
〒969-3101 福島県耶麻郡猪苗代町字清水前2748-1
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10:00→18:00
◎プレオープン
4/29 fri – 5/8 sun
(※プレオープン中無休)
◎グランドオープン
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【他の全力取材記】
MOROCCO全力取材記 #001~#011
http://kazetsuboban.com/morocco/
No,49
SIPPOU のある時間
・GOSHIMA【Royal Collection】SIPPOU
・鎚起銅器×漆【イイハシナオタカ】カップ/つるつる
・鎚起銅器×漆【イイハシナオタカ】ぐい呑み/ざらざら
・鎚起銅器【大橋保隆】片口 小
・鎚起銅器【大橋保隆】丸皿
・特別コンセプトBook
350,000円(税込)
※鎚起銅器・イイハシナオタカについては組み合わせはご自由です。
※贈答用にお包み致します。
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No,50
GOSHIMA【Royal Collection】
SIPPOU
830×1230/厚み25(mm)
250,000円(税込)
※この商品は本サイトのみで販売。
>SHOPPINGについて
No,51
鎚起銅器×漆・イイハシナオタカ
カップ/つるつる
内径:50mm/外径:75 mm/高さ:67mm
29,700円(税込)
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No,52
鎚起銅器×漆・イイハシナオタカ
ぐい呑み/つるつる
内径:45mm/外径:60 mm/高さ:50mm
27,000円(税込)
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No,53
鎚起銅器×漆・イイハシナオタカ
カップ/ざらざら
内径:50mm/外径:75 mm/高さ:67mm
28,080円(税込)
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No,54
鎚起銅器×漆・イイハシナオタカ
ぐい呑み/ざらざら
内径:45mm/外径:60 mm/高さ:50mm
25,380円(税込)
>SHOPPINGについて
No,55
鎚起銅器・大橋保隆
片口 小
横幅:140mm/高さ:60mm
24,840円(税込)
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No,56
鎚起銅器・大橋保隆
丸皿
内径:195mm/外径:230mm
15,120円(税込)
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